
「建て替え」を待つか、スラム化する前に売るか
築40年超えマンションの出口戦略
1. 震度6強が来たらどうなる?「旧耐震」の定義
1月17日や3月11日が近づくと、どうしても「地震」の話題が増えます。
私は不安を煽りたいのではありません。
建築士として、冷たい事実だけを共有します。
旧耐震・新耐震を分ける目安は、建築確認日が1981年(昭和56年)5月31日以前か、6月1日以後かです。
フラット35の技術基準でも、この日付を境に耐震性の扱いが分かれています。
耐震基準の考え方も変わりました。
国土交通省の資料では、新耐震基準は「数百年に一度程度発生する地震(震度6強〜7程度)でも倒壊・崩壊しない」ことを目標とする、と整理されています。
一方で旧耐震は、一般に「中規模地震(震度5強程度)で倒壊しない」水準を主眼として説明されることが多いです。
仙台でも、1980年前後に建てられた分譲マンションは現役です。
「まだ住める」ことと、「資産として安全」かは別問題になります。
2. 「うちは大丈夫」?コンクリートの寿命と配管の寿命
築40年超のマンションで、私が一番怖いのは「構造体がすぐ壊れる」話ではありません。
現実に先に音を立てて壊れてくるのは、設備です。
鉄筋コンクリートそのものは、適切な維持管理が前提ですが長期に使えます。
ところが、マンションは埋設された配管・電気設備・防水など、更新しないと生活が破綻する部位が多い。
国土交通省の長期修繕計画ガイドラインの標準的な修繕周期の例でも、たとえば専有部分の配管取替が28〜32年、共用部分の給水管の取替が30年程度といった目安が示されています。
ここで重要なのは、配管更新は「やるか、やらないか」ではなく、「やらないと事故になる」という点です。
漏水は階下まで巻き込みます。
住みながらの工事はストレスも大きい。
結果として、住民の合意形成がどんどん難しくなります。
3. 夢を見るのは危険。「建て替え」がほぼ不可能な理由
「建て替えがあるなら待ちたい」
気持ちは分かります。
ただ、建て替えは“願い”では進みません。必要なのは、数字と合意です。
①建て替え決議の壁
マンションの建て替えは、原則として区分所有者と議決権の各5分の4以上(80%)の賛成という高いハードルがあります。
さらに、2025年の法改正を受けて、2026年4月施行で関連ルールが動きます(多数決要件の見直しなど)。
ただ、基本の「重い合意形成」という構造自体は変わりません。
②お金の壁
建て替えを成立させるパターンは、実務上ほぼ2つです。
- 余剰容積率があり、部屋数を増やして売却益で事業費を回せる
- 余剰がないため、区分所有者が多額の持ち出しをする
後者になると、年金暮らしの世帯が多い高経年マンションほど合意が取れません。
持ち出しが1戸あたり1000万円単位になると、現実は止まります。
そして統計的にも、建て替えの実現例は多くありません。
住宅情報の調査では、建て替えは累計でも限られ、直近年の成立件数も多いとは言えない状況が示されています。
建て替えの「明暗」を分けるもの
カギは「容積率の余り」と「誰が払うか」
部屋
4. 【失敗談】建て替え議論が紛糾し、売り時を逃して塩漬け
これは特定のマンションを指す話ではなく、私のところに持ち込まれる相談として“よくある型”です。
「建て替え話が出ているから、高く売れるかもしれない」
そう考えて売却を先送りした結果、会議は紛糾します。
-
負担額の算定で揉める
-
仮住まいの段取りで揉める
-
反対者が固定化する
-
結論が出ないまま、数年が過ぎる
その数年で、給排水の不具合や滞納、空室が増え始めると、買い手は一気に減ります。建て替えが“材料”だったはずが、いつの間にか“火種”になって、最後は塩漬け。これが最悪の出口です。
5. 仙台における「旧耐震物件」の市場価値とローン問題
旧耐震マンションは、需要がゼロではありません。けれど買主の母数が狭くなります。
理由はシンプルで、ローンが通りにくい場面が増えるからです。
フラット35では、耐震性について「建築確認日が昭和56年6月1日以後であること」を原則とし、昭和56年5月31日以前の場合は耐震評価基準などへの適合が必要とされています。
この条件に引っかかると、買主は次のどちらかになります。
-
現金で買える層
-
耐震評価や改修にコストをかけてでもローンを使いたい層
当然、価格交渉は厳しくなります。
「相場より安くなる」のは、建物の見た目ではなく、金融面の制約で起きます。
6. 管理不全になると「固定資産税」が上がる?法改正の動き
ここは誤解が多いところなので、言い切ります。
現時点で「管理不全だから固定資産税が自動的に上がる」と決まっているわけではありません。
ただし、税と制度の“流れ”は押さえておくべきです。
1)管理が問われる時代に入った
国の資料でも、高経年化と高齢化が進み、外壁剥落など危険が高まるマンションが増える中で、地方公共団体が管理状況を把握し、管理の適正化を促す仕組みが整備されてきた経緯が説明されています。
また、管理計画認定制度の運用の中では、認定後に計画どおり管理していないと認められる場合、改善命令などの規定も明記されています。
これが資産価値に直撃します。買主は、部屋だけでなく「管理」を見ています。
2)税は「罰」より「優遇」を取りにいく
固定資産税については、逆方向の動きもあります。国交省資料では、一定の要件を満たす大規模修繕等に関して、マンション長寿命化促進税制(減額措置)の案内が整理されています。管理計画の認定と、外壁塗装・防水などの工事要件、申告期限などが示されています。
管理が崩れると、こうした「優遇を取りにいく体力」自体がなくなります。
結果として、同じ築年でも“ちゃんと管理しているマンション”との差が広がり、売る時に一番損をします。
7. まとめ:ババ抜きになる前に。「逃げ切り」も立派な戦略
築40年超の旧耐震マンションは、「住めるかどうか」ではなく「出口があるかどうか」で考えるべき局面に入っています。
-
建て替えは、合意と事業性が揃った一部だけが現実になる
-
設備の寿命が先に来るので、修繕費は待ってくれない
-
管理が緩むと、買い手の信用が落ちて売れにくくなる
-
ローン制約で買主が減り、価格が伸びにくい
酷な言い方になりますが、問題が複雑で解けないなら、体力と判断力があるうちに手放し、安心できる住まいへ移る。これは敗走ではありません。資産防衛として、極めて合理的な「逃げ切り」です。
お好みの方法でご相談ください。
受付時間:10:00~12:00、13:00~17:30(定休日:水曜日)
よくある質問(Q&A)
Q1:耐震補強工事をすれば新耐震扱いになりますか?
可能性はあります。フラット35でも、旧耐震(昭和56年5月31日以前)の場合は耐震評価基準などへの適合が求められています。
ただし、マンションの耐震補強は規模が大きく、設計・合意形成・工事費が重いです。「できるか」より先に「管理組合として決断できるか」が壁になります。
Q2:賃貸に出せばいいのでは?
大家になるのは一つの選択肢ですが、旧耐震かつ高経年のマンションは、地震リスクだけでなく漏水リスクも抱えたまま運用することになります。専有部配管の更新目安が28〜32年という資料もあるとおり、築40年超では“いつ起きても不思議ではない”領域です。
家賃収入で安心する前に、事故時の費用・手間・精神的負担まで計算に入れてください。
この記事を書いた人
澤口 司 株式会社スイコー 代表取締役
一級建築士・宅地建物取引士・Affiliated Financial Planner。「建築」と「不動産」の両面から、資産価値を守る提案。複雑な相続問題も、プロの知見でシンプルに解決へと導きます。
