
特例には期限があります。
3年以内の売却が必須な理由
1. 確定申告シーズン。「税金を払う人」と「ゼロになる人」の差
確定申告の時期になると、同じように実家を売ったのに、税金がゼロになる人と、数百万円を納める人に分かれます。差を生むのは、運ではなく制度と段取りです。
実家を売って利益(譲渡所得)が出ると、通常は税金がかかります。長期譲渡(所有期間5年超が一般的)だと合計で約20%、利益3,000万円なら税額は約600万円規模になるイメージです。ここまで来ると、家計の話ではなく資産防衛の話になります。
ところが、相続した空き家に限って使える特例を使えれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。利益が3,000万円以内なら、結果として税金がゼロになる可能性があります。
ただし、令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡で、相続人が3人以上の場合は、控除上限が3,000万円ではなく2,000万円に下がります。ここを知らずに話を進めると、最後に計算が合わなくなります。
2. 最強の節税カード。「被相続人の居住用財産(空き家)の特例」とは
制度の正式名称は、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例です。
国がこの制度を用意した理由は、放置空き家を減らすためです。相続した家が空いたままになると、建物は傷み、近隣トラブルや管理コストが増えます。だから、一定の条件を守って早めに売却するなら、税金面で大きく優遇します、という設計になっています。
ここで大事なのは、節税額の大きさではありません。期限を守れるかどうかです。期限を過ぎた瞬間に、カードは無効になります。
なお、制度そのものにも適用期限があります。対象になるのは平成28年(2016年)4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの譲渡です。相続の期限だけ見て安心するのは危険です。
3. カレンダーを確認してください。「3年目の12月31日」がタイムリミット
適用要件の中で、最も事故が多いのが期限です。
相続開始(親の死亡日)から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。これがタイムリミットです。
計算例で確認します。
2023年6月に亡くなった場合
3年を経過する日は2026年6月です。属する年は2026年なので、締切は2026年12月31日です。
ここで誤解が多い点があります。譲渡所得の計上は、実務上は引渡し日基準で考えるのが安全です。年末に契約しても、引渡しが年明けにずれると危険域に入ります。
一方で、譲渡日の扱いはケースにより例外的な判断や選択が絡むことがあります。年末をまたぎそうだと分かった時点で、税理士や税務署で確認し、売買契約書の条件や引渡しスケジュールを再設計してください。記事としては、引渡し基準で段取りを組む、と覚えておけば大きな事故は減ります。
さらに言うと、まだ時間があると思っている方ほど間に合いません。解体や測量は混みます。買主探しも、融資審査も、年末は詰まります。相続人の意思決定が遅れると、そこから一気に崩れます。
「3年目の12月31日」までの工程表
間に合わない原因は「測量」と「解体」の読み甘さ
(※契約だけではNGのケースが多いです)
4. 【失敗談】1ヶ月過ぎただけで特例が使えず、税金600万を払った事例
仙台エリアでも、起きている失敗です。個人が特定されないように内容は整理してあります。
Aさんは、相続した実家を売り出し、買主も見つかりました。契約も年内に終わっています。Aさんご本人は、これで大丈夫だと思いました。
ところが、境界が曖昧で測量が長引き、解体の着工も遅れました。引渡しが年をまたぎ、結果として期限を過ぎました。
利益は約3,000万円。特例が使えないので税金は約600万円規模になりました。Aさんは、たった1か月でこうなるのか、と言葉を失っていました。
こういう事故は、誰かが怠けたから起きるのではありません。段取りの責任者がいなかったから起きます。
5. 「昭和56年5月31日以前」の家だけ。新しい家は対象外?
この特例は、誰のどんな家でも使える制度ではありません。入口条件がはっきりしています。
第一に、昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋であることが必要です。旧耐震の戸建てが中心になります。
第二に、区分所有建物(マンションなど)は対象外です。戸建ての相続が前提の制度だと理解してください。
第三に、親が一人暮らしであったことが原則です。相続開始直前に、被相続人以外の居住者がいないことが求められます。
ただし、老人ホーム等に入所していた場合でも、要介護認定など一定の要件を満たせば、例外的に対象になり得ます。ここは使えるかどうかで金額が大きく変わるので、早い段階で要件確認と書類準備を進めてください。
小規模宅地等の特例との違いにも触れておきます。小規模宅地等の特例は相続税の話、この空き家特例は売却時の所得税の話です。併用や選択の検討が必要になることがあるため、税務の最終判断は税理士へつないでください。
6. 更地にするか、耐震改修か。売却時の「引き渡し条件」に注意
適用要件として外せない3点目が、建物の扱いです。
原則として、譲渡時までに耐震リフォームをするか、または解体して更地にすることが必要です。
耐震改修を選ぶ場合、耐震基準を満たしたことを示す証明書類が必要になります。診断、設計、工事、証明発行までを期限内に収める必要があり、スケジュール難易度が上がります。
令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡では緩和が入り、売主が譲渡時点で耐震改修や解体を完了していなくても、一定の期限までに買主側が工事を完了すれば適用できるルートが設けられました。
ただ、私は実務的には更地渡しを安全側の選択として勧めます。買主側の工事ルートは、契約条項の設計や買主の実行力に左右されます。最後にずれたとき、税金の責任を負うのは売主側です。ここは保険をかけるべき場面です。
加えて、相続してから売るまでの間に、賃貸に出したり、事業に使ったり、誰かが住んだりすると要件から外れる方向に傾きます。軽い気持ちで貸さないでください。
7. まとめ:特例を使うための「解体・測量・売却」はセットで依頼を
この制度は、知っているだけでは使えません。期限、要件、書類、確定申告まで含めて、工程として完了させる必要があります。
特に、期限管理は個人でやると高確率でこぼれます。相続人の意思決定、境界、解体、買主探し、引渡し、申告。どれか一つが遅れてもアウトになります。
だから、特例を狙うなら、解体・測量・売却を別々に頼むのではなく、最初から一つの案件として設計し、責任者を一人に決めるべきです。
株式会社スイコーでは、売却だけでなく、測量や解体の段取りも含めてスケジュールを組み、期限アウトを防ぐ進め方を取ります。死亡日から逆算して、今月やること、次月やることをカレンダーに落として進めましょう。
お好みの方法でご相談ください。
受付時間:10:00~12:00、13:00~17:30(定休日:日曜日)
8. よくある質問(Q&A)
Q1:親が同居していた場合は使えますか?
A:原則として厳しいです。相続開始直前に被相続人以外の居住者がいないことが条件になるため、同居していた場合は対象外になりやすいです。例外的な判定が絡む可能性もあるので、早めに個別確認してください。
Q2:売却額が1億円を超えるとダメですか?
A:ダメです。譲渡の対価の額が1億円以下であることが要件です。
Q3:確定申告を忘れたらどうなりますか?
A:特例は申告しないと適用されません。確認書など必要書類をそろえて確定申告まで終えて、初めて控除が反映されます。絶対に忘れないでください。
この記事を書いた人
澤口 司 株式会社スイコー 代表取締役
一級建築士・宅地建物取引士・Affiliated Financial Planner。「建築」と「不動産」の両面から、資産価値を守る提案。複雑な相続問題も、プロの知見でシンプルに解決へと導きます。
