
「契約書がないなら売値の5%で計算します」
その言葉、数百万円の損かもしれません
実家のタンスをひっくり返しても「売買契約書」が出てこない
確定申告が近づく時期、相続した土地や空き家を売った方から、よく同じ焦りの声を聞きます。
昭和40年代、50年代に親が買った土地。相続した時点では契約書も領収書も見当たらない。これは珍しくありません。
ただ、焦りが強いほど、判断が荒くなります。
「もう出ない」と決めつけて申告を進めたあとに、押し入れの奥から契約書が出てきた。こういう話も現実にあります。
そして、取得費が分からないまま進むと、税金計算が一気に不利になります。譲渡所得(不動産を売って出た利益)は、次の式で計算します。
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
この取得費が分からないとき、次の章の制度が登場します。
恐怖の「5%ルール」。3000万で売れたのに利益2850万?
取得費が分からない場合、売った金額の5%相当額を取得費(概算取得費)にできる、という取り扱いがあります。
例えば、土地建物を3,000万円で売ったのに取得費が不明。
この場合、取得費は 3,000万円×5%=150万円 として計算してよい、と国税庁も具体例を示しています。
ここが怖いポイントです。取得費が150万円扱いになると、ざっくり言えば残りが利益扱いになります。
3,000万円-150万円=2,850万円
もちろん、仲介手数料や測量費などの譲渡費用は別途差し引けます。
それでも、取得費が実額より極端に小さくなると、課税される利益が跳ね上がりやすい。だから安易に使うと危険です。
恐怖の「5%ルール」適用イメージ
取得費がわからないと、税金が激増する仕組み
本来、買った時の金額(実額)が2,000万円であれば、利益は1,000万円で済みます。
しかし、証拠がないために5%ルールを使うと、計算上の利益が約3倍に膨れ上がり、税金も跳ね上がります。
税金が600万円も変わるシミュレーション
まず税率です。所有期間が5年を超える長期譲渡所得は、所得税15%と住民税5%で計算し、さらに復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が上乗せされます。
所有期間が5年以下の短期譲渡所得は、所得税30%と住民税9%で、同じく復興特別所得税が上乗せされます。
ここからが本題です。以前の原稿では、3,000万円のケースで「600万円も変わる」と読み取れる書き方になり得ました。
この前提のままだと、税率が長期の場合、差額が600万円に届かないことが多いです。そこで、数字を正しい形に直して示します。
ケースA:売却3,000万円での比較(差は数百万円規模)
前提:
売却3,000万円、譲渡費用150万円
取得費は推定2,000万円と仮定
概算取得費は150万円(5%)
計算:
実額ベースの譲渡所得:3,000-(2,000+150)=850万円
5%ルールの譲渡所得:3,000-(150+150)=2,700万円
この差は1,850万円です。長期税率の合計イメージ(約20.315%)で見ると、税額差は概算で約376万円程度になります。
税額の計算方法そのものは国税庁の式に沿います。
ケースB:売却額が大きいと、600万円超が現実になる
次に、仙台でも中心部の土地やまとまった敷地で起きやすい「売却額が大きい」ケースです。
前提
売却6,000万円、譲渡費用300万円
取得費は推定4,000万円
概算取得費は300万円(5%)
計算
実額ベース:6,000-(4,000+300)=1,700万円
5%ルール:6,000-(300+300)=5,400万円
差は3,700万円
長期税率の合計イメージで見ると、税額差は概算で約751万円程度まで伸びます。長期税率と復興特別所得税の仕組みは国税庁の説明どおりです。
つまり、3,000万円でも痛い。6,000万円ならさらに致命傷。
この意味で、税金が600万円以上変わることは十分に起こります。
「証拠なし」で税金はどう変わる?
5%ルール適用時の納税額シミュレーション
税率 約20.315%(所得税+住民税+復興税)で試算
【失敗談】面倒だからと概算取得費で申告し、後で後悔した話
税理士さんに「契約書がないなら5%で行きましょう」と言われ、そのまま申告して納税した。
その後、知人が統計データや資料を集めて取得費を推計し、結果として税負担を抑えていたと知って愕然とした。
こういう後悔は、実務の現場で本当にあります。
ここで強調したいのは、税理士さんの判断が雑だと言いたいのではありません。証拠がなければ、安全策として5%に寄る判断は起こり得ます。
問題は、申告前に探せる証拠を探さず、最初から5%を既定路線にしてしまうことです。
諦めないで。「市街地価格指数」という統計データを使う裏技
取得費が分からないとき、概算取得費しか道がないと思われがちです。
しかし実務では、合理的な推計ができる材料を積み上げて、取得費を説明しにいく考え方があります。
その一つが、市街地価格指数です。
市街地価格指数は、一般財団法人日本不動産研究所が年2回、全国主要都市の宅地について不動産鑑定士等が価格調査を行い、指数化して公表しているデータです。
そして重要なのは、国税不服審判所の公表裁決の中に、指数を用いた取得費推計が争点になった事例があることです。
一方で、納税者側の推計が認められず、概算取得費相当が妥当とされた方向の裁決もあります。
ここは誤解してはいけません。
市街地価格指数は、これを使えば必ず認められる魔法の計算式ではありません。あくまで交渉材料になり得る、という位置づけです。最終判断は税務署であり、申告方針は税理士の職域になります。
契約書がない時の「生存戦略」
5%ルールの前に検討すべき「推計」の道
統計データで計算
要:税務署の是認
スイコーが協力できる「当時の相場証明」と資料作成
税理士任せにする前に、株式会社スイコーとしてできるのは、証拠探しの実働です。
税理士が申告で使える形に整理するための、材料集めと資料化です。
例えば、次のようなものが補強材料になります。
過去の評価資料にあたるための手がかり整理
当時の住宅地図などで、土地の状況や利用実態の説明を補強
登記情報から、取得時期や融資の状況など周辺事情を確認
通帳の出金履歴、領収書の断片、手書きメモ、分譲パンフレットなどの断片資料をつなぐ
抵当権の設定額なども、取得時の事情説明の補強材料になることはありますが、それ自体が取得費だと直結するわけではありません。資料の組み合わせ方が大切です。
私たちは仙台の取引実務に即して、税理士が判断しやすい形に整えます。最終的な申告判断は税理士と税務署ですが、そこに至るまでの下支えは、不動産会社でも十分にできます。
まとめ:税金貧乏にならないために。申告前に一度相談を
国税庁の案内では、令和7年分の確定申告の受付期間は、令和8年2月16日から3月16日までです。
期限が見えると、早く終わらせたくなります。
でも、不動産売却の申告で一番危ないのは、焦って5%ルールに着地してしまうことです。取得費を探す手間を惜しんだ結果、手取りが数百万円単位で減る。これは現実に起こります。
申告書にサインする前に、その取得費は本当に5%しかないのか。
一度、資料の探し方から確認しましょう。
お好みの方法でご相談ください。
受付時間:10:00~12:00、13:00~17:30(定休日:日曜日)
よくある質問(Q&A)
Q1:絶対に認められますか?
A:絶対ではありません。推計が認められた方向の裁決もありますが、認められず概算取得費相当とされた裁決もあります。
不動産に強い税理士と連携して、否認リスクも織り込んだ方針にすることが大切です。
Q2:手書きのメモは証拠になりますか?
A:メモ単体だと弱くなりがちです。ただ、通帳の出金履歴、ローン関連資料、登記の時系列など、客観資料とセットにできると説明力が上がります。取得費不明のときの考え方自体は国税庁の案内に沿って整理します。
Q3:建物だけでも契約書があれば違いますか?
A:違います。建物の取得費は減価償却費相当額を差し引いて計算するため、建物価格が分かる資料があると、全体の取得費を組み立てやすくなります。
この記事を書いた人
澤口 司 株式会社スイコー 代表取締役
一級建築士・宅地建物取引士・Affiliated Financial Planner。「建築」と「不動産」の両面から、資産価値を守る提案。複雑な相続問題も、プロの知見でシンプルに解決へと導きます。
