
「ここからここまでが私の土地」と言えますか?
売却をストップさせる「境界非明示」の恐怖
1. 物語:あなたの実家、四隅に「杭」はありますか?
実家の売却を考えて、久しぶりに庭の草むしりをしたときのことです。
古い図面を片手に、土地の角を見て回る。ブロック塀の位置と図面の形が、微妙に合わない気がする。
境界杭は、よく赤い頭の杭だったり、コンクリート杭だったりします。
ところが、探しても見つからない。
植木の根元、塀のきわ、隅っこ。
いくら見ても、それらしいものがない。
この瞬間、胸の奥に嫌な不安がよぎります。
もし境界が曖昧なままだったら、売却は進むのか。
買主さんが現れてから揉めるのか。
こうした不安は、気のせいでは終わらないケースが少なくありません。
2. 昔の「公図」はズレている。ブロック塀も信じちゃダメ
法務局で取れる公図(旧公図)を見て、安心する方がいます。
ところが、公図の多くは明治時代の地租改正期に作られた図面がベースになっていて、現地と形が違うことが珍しくありません。
そもそも当時の技術や目的(課税の参考)から、精密さを期待できない図面が混在しています。
さらに危ないのが、ブロック塀を境界線だと思い込むことです。
ブロック塀は、敷地の真ん中に積まれているとは限りません。
塀の中心も、塀の外側も、境界線ではないことがあります。
昔の工事で、片側が自分の土地に寄っていたり、反対に相手の土地に少し乗っていたりする。
塀は長年そこにあるだけに、誰も疑わないまま時間だけが経ちます。
ブロック塀 ≠ 境界線
「塀があるから安心」は危険な思い込みです
※ 塀の中心が境界とは限りません。数十センチずれていることも。
はみ出している
※ 塀自体は境界内にあっても、地中の基礎がお隣へ越境しているケース。
3. なぜ「境界」が確定しないと不動産は売れないのか
昔は現況有姿で売る話もありました。
今でも、境界非明示で売買すること自体は制度上は可能です。
ただ、買主さんにとってのリスクが大きいので、現実には話がまとまりにくい。
境界標が無い土地は売れない、ではなく、売れるが条件が厳しくなる、が実態です。
買主さんが住宅ローンを組むとき、購入後に建替えをするとき、確定測量図が無いと困ります。
面積が確定しない、越境が後から出てくる、隣と揉める。
こうなると金融機関も慎重になりますし、そもそも仲介会社が取扱いを断ることもあります。
売主側の実務も同じです。土地売買契約では、売主が測量図をどの種類で交付するか、境界をどう明示するかが重要事項として整理されるのが一般的です。
確定測量図の交付が契約条件になっているのに、隣地の協力が得られず交付できないと、契約トラブルに発展します。
そしてもう一つ。契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)を免責・軽減する特約を入れる場合でも、境界や越境などの状況をきちんと説明し、契約書に明記することが前提になります。
境界を曖昧にしたまま全部免責、は通りにくい。後から紛争が出れば責任追及され得ます。
4. 【失敗談】隣の人がハンコを押してくれない!
測量を入れて、いよいよ境界を確定しようとした矢先。
隣地の方がこう言いました。
昔からここはうちの庭だと思って使ってきた。
今さら線を引かれたら困る。
測量の結果として示されたラインに納得できず、筆界確認書(境界確認書)への押印を拒否。
結果、買主さんとの話は白紙に戻りました。
買主さんから見れば、境界が固まらない土地は将来の火種です。踏み切れないのは当然です。
ここで大事な点があります。
隣地の立会いや押印は、法律上は強制できません。
だからこそ、売却の終盤になってから動くと詰みやすいのです。
5. 売主の義務?「確定測量」にかかる費用と期間
確定測量は、土地家屋調査士に依頼して進めるのが一般的です。
費用は土地の条件で変わりますが、目安として35万〜80万円程度、期間は3〜4カ月程度を見込む説明が多いです。
官有地(道路・水路)との境界が絡むほど、調整が増えて長引きやすい。
スケジュールで一番危ないのは、買主さんが現れてから測量を始めることです。
契約や決済の期日に間に合わない可能性が上がります。
売却の初期段階で現地確認をして、必要なら先に段取りする。
これが資産防衛としての現実的な動き方です。
境界確定の実務では、隣地所有者全員の立会いを調整し、筆界確認書(境界確認書)を取り交わします。
押印は実印、印鑑証明書の添付まで求める運用が一般的です。
法律に実印必須と書かれているわけではありませんが、後日の争いを避け、登記手続でも説明が通りやすいので、実務としてはここまで揃えるのが安全策です。
6. 仙台の旧造成地における「越境」あるある
仙台市内でも、昭和40年代〜の造成団地で、境界まわりの相談はよく出ます。
造成当時の施工精度のばらつき、擁壁やブロックの積み直し、長年の補修の積み重ねで、見た目の線と筆界が一致しないケースがあるからです。
越境もいろいろあります。
ブロック塀の基礎、雨樋の排水、樹木の枝、境界付近の土留め。
全部を即撤去で片付けると、関係がこじれます。
現実的には、越境の内容を特定し、将来の扱いを覚書で整理する方法もあります。
例えば、現状は互いに容認するが、建替えや撤去のタイミングでは是正する、費用負担はどうする、といった取り決めです。
仙台の旧造成地「越境」あるある
即撤去で揉める前に「覚書」で将来を約束する
解決策:覚書(おぼえがき)の締結
「今はそのままでいいけど、将来こうしましょう」と約束する書類を作ります。
7. まとめ:お隣さんとの関係も円満に。売却の第一歩は「現地確認」
境界問題は、突き詰めると人間関係です。
いきなり土地家屋調査士が現地に入り、線を示す展開になると、相手は身構えやすくなります。
だから私は、段取りを一つ前に戻すことをおすすめしています。
まずは顔なじみの不動産会社がご挨拶に伺い、売却の事情と、これから行う手続きの流れを丁寧に共有する。
そのワンクッションが入るだけで、立会いの空気がまったく変わることがあります。
スイコー不動産では、土地家屋調査士と連携し、境界確認の進め方を設計します。
最初に何を伝え、誰に会い、どの順番で立会いをお願いするか。
角が立たないように、説明の仕方まで整えたうえで進めます。
前面道路との境界が絡む場合は、道路管理者との境界確定(いわゆる官民境界)も視野に入れます。
道路との境界は、所管の道路管理者に申請し、立会い等を経て確認していくのが基本です。
売却を検討し始めた段階で、まずは現地確認から始めてください。
杭が見当たらない、塀の位置が怪しい。
そうした小さな違和感は、後から大きな手戻りに変わります。
早めに現地を押さえておけば、売却が動き出してから止まるリスクを減らせます。
資産防衛として、ここが最初の一手です。
お好みの方法でご相談ください。
受付時間:10:00~12:00、13:00~17:30(定休日:水曜日)
よくある質問(Q&A)
Q1:測量費用は売主と買主、どちらが負担しますか?
A:一般的には、売主が確定測量図を整えて引き渡すケースが多いです。買主さんの融資や将来利用に直結するので、売買条件として求められやすい部分です。
Q2:隣の人が行方不明の場合はどうすればいいですか?
A:境界確定が隣地所有者の協力を前提に進む以上、行方不明だと止まりやすいです。不在者財産管理人の選任など法的手続きが必要になることがあり、時間も費用もかかります。売却の後半で発覚すると致命傷になりやすいので、早めの調査が大切です。
Q3:官民査定(道路との境界)とは何ですか?
A:前面道路や水路など、公有地との境界を道路管理者等と確認して確定する手続きです。民地同士の境界とは別枠で、売却や建替えの場面で必要になることがあります。
この記事を書いた人
澤口 司 株式会社スイコー 代表取締役
一級建築士・宅地建物取引士・Affiliated Financial Planner。「建築」と「不動産」の両面から、資産価値を守る提案。複雑な相続問題も、プロの知見でシンプルに解決へと導きます。
